探し物の物語
01
島民の人口がとても少ないこの島は、夜になると途端に無人島のような静けさに包まれる。
静かなグレン島に響き渡るのは、波間に打ち寄せる波のさざめき。
そしてひっそりと息を潜める生き物達の泣き声。
その日も、それは変わらないはずだった。
一つの異物が砂浜に流れ着くまでは。
探し物の物語 1話
おぎゃあぁぁぁぁっ……ひっく…
突如として、静けさを破る泣き声が島中に響き渡る。
時は深夜。
ちょうどその時研究書に目を通していたカツラは、異常な事態にすぐさま研究所を飛び出した。
モンスターボールから出したギャロップの背にまたがり、駆けること数分。
たどり着いたのは、波がせめぎ合う砂浜だった。
僅かに欠けた月と星の灯り、そしてギャロップが纏う炎の灯りを頼りに、カツラは砂浜をくまなく見渡す。
奇妙な泣き声をあげる物体は、すぐさまカツラの目に留まった。
砂浜に転がる、白い布にくるまれた何か。
泣き声はその何かが発している。
恐る恐る近寄って布の隙間を覗いてみたカツラは、あまりの出来事に頭を抑えた。
「何故、赤子が…。」
布にくるまれた何かは赤子だった。
さすがに産まれたてでは無いが、まだ母親のお乳が必要な頃だろう。
一体何故、親の手が必要な赤子がこんなところに打ち捨てられているのだろうか。
くるまれた布、そして赤子の体はぐっしょりと水に濡れている。
そのことから海水に浸かっていたことが伺えるが、まさか他の島から流れてきたのだろうか。
ありえない。この島に一番近い島ですら、かなりの距離があるのだから。
おまけに島の付近の海流は複雑だ。
プロのスイマーならともかく、浮き輪も何も持っていない赤子が浮いてこの島まで流れ着くのは有り得ないことだった。
たった一つの可能性を除いて。
「クゥ〜」
赤子が転がっている浜の波際から、赤子とはまた違った鳴き声がした。
今度は一体何が居るのだろう。
接近して確認しようとしたカツラの顔に、べチャリと水鉄砲がかかる。
流石のカツラも、これには驚いてしりもちをついた。
濡れてしまった眼鏡を拭きなおして再び顔を寄せてみると、赤子よりすこし大きいサイズのラプラスが波にプカプカ浮いているではないか。
まだ子どもなのだろう。
あまり人間を警戒していないようで、体を引きずりながら砂浜に上ってくる。
カツラに水鉄砲をかけたのは、単なる悪戯だったらしい。
ラプラスが赤子に顔を寄せて頬を擦り付けると、赤子はぴたりと泣くのを止め、嬉しそうにキャアキャア笑い始めた。
おそらくこのラプラスが、この島まで赤子を運んできたのだろう。
カツラはこの赤子をどうするか暫く悩み、その結果、家に連れて帰る事にした。
このまま砂浜に置いていては、明日の朝には死んでしまっているかもしれないからだ。
「よくここまで運んでくれたな。この子は責任を持って面倒を見るから。」
カツラはラプラスに語りかけると、赤子を抱えてギャロップに乗り、一直線に家に向かった。
赤子はまだ元気なように見えるが、その体はとても冷たい。
急いで暖めてあげなければ、いつ命を落とすか分からない状態だ。
猛烈な勢いで去っていくカツラたちの後姿を、ラプラスは浜辺から心配そうに見つめていた。
その日から時は流れ、12年後。
あの日の砂浜も、今日と同じで穏やかだった。
違うといえば、今が昼で、月の変わりに太陽が出ていること。
そして、あの時の赤子が少女になったこと。
「。」
カツラは12年前に流れ着いた場所と同じところに立つ、かつての赤子に呼びかけた。
潮風になびく髪を押さえつけ、少女となったかつての赤子は振り向く。
抱えられる小ささだった体はすっかりと大きくなり、手足も伸びた。
今はもう、カツラの腕の中に抱えきれない存在だ。
「行くのか。」
カツラの問いに、少女−−は頷いた。
ショルダーバッグの中からモンスターボールを取り出し、海に向かって放り投げる。
開いたボールの中からでてきたのはラプラスだった。
大きな水しぶきを上げて一回海の中へと沈んだラプラスは、程なくして海水面へ浮上してくると、波際まで近寄ってきてに背中を寄せる。
はその背中に難なく飛び乗った。
12年間一緒に暮らしてきた少女は、今日、ついに旅立ちの日を迎えた。
自分探しという旅に。
「お父さん、じゃあね。」
今生の別れじゃないのは分かっているけれど。
別れの言葉に、カツラは思わず泣きそうになる。
カツラはこの12年間、を本当の娘のように育ててきた。
実際、のことを本当の娘だと思っている。
たとえ産みの親は違っても、育ての親は自分だから。
「この島から近いのは、マサラタウンかふたご島だ。ふたご島の先に行けばセキクチシティもあるが、ジムを制覇していくならマサラタウンから行くといいだろう。」
「うん、分かった。」
「何かあれば、直ぐに戻ってこればいい。」
たとえ本当の親が見つかっても、見つからなくても。
が帰ってくる場所はいつも用意してるから。
カツラが言った言葉の意味が分かったのだろう。
は微笑んで、手を振った。
「それじゃあ、行ってきます!!!」
あの日島に流れ着いた赤子は、少女となって島を旅立った。
自分の出生、そして本当の親を知るために。
真実にたどり着くまでに多くの出会いと困難があることを、まだ少女は何一つ知らない。
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今更ですが、ポケスペ1巻から連載しちゃおうかな〜なんて。
とっても無謀。
2007/2/4