探し物の物語。

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03

無事タケシに勝利した少年は、バッジを手に入れてからすぐさまを連れて町のレストランに移動した。
大切なフシギダネを届けてくれたことへのお礼と、勝つことが出来た自分に対するお祝いを兼ねてだ。



「賞金も結構出たし、キミも遠慮せずに好きなものを頼んでね。」



にっ、と笑顔でに語りかける少年。
まだあどけなさが残った邪気の無い笑みに、は緊張してこわばっていた肩から力が抜けていくのを感じた。














探し物の物語 3話














今までグレン島で暮らしていたには同年代の友達が居なかった。
だからこうして一緒に食事などということは、とても緊張するのだ。
けれど、目の前の少年はそんなの緊張をほぐしてくれる不思議な気配を出している。
少年はメニューにサッと目を通すと、すぐに頼むものを決めたようだ。
テーブルの側を通りかかったウエイトレスを呼び止めて、次々と注文していく。



「オムライスとから揚げとコーンスープ、それからツナサラダを。食後にバニラアイスもよろしく。…キミはもう決まった?」
「あっ、うん。このハムタマゴサンドイッチとレモンティーをお願いします。」



かしこまりました、とウエイトレスが去っていく。
少年は自分と比べて随分と頼む量が少ないの顔をじっと見た。



「少食?」
「うーん、どうなんだろう。でも、少なくともアナタよりは小食だと思うわ。」



小柄な体格のわりに、信じられないくらいの量を頼んだ少年。
そのギャップには思わずクスリと笑った。
目の前の少年がほのかに頬を染めるが、はそのことには気付かずにポンと手を叩く。



「そういえば自己紹介してなかった。私は。グレン島から旅をしてきたの。」
「グレン島?ずいぶん遠くから来たんだな。オレは――――――」
「『マサラタウンのレッド』でしょう?」
「何でそれを!?」



少年は目を見開いた。
なんともリアクションが大きい。
あまりの驚きっぷりに、再びはクスリと笑う。



「アナタが優勝したとき、審判さんが言った名前を聞いていたの。」
「ああ、それでか。」



レッドが優勝したとき、審判はレッドの手を取って「勝者はマサラタウンのレッド」と言ったのだ。
あの場にいたは知っていて当然のことである。
考えればすぐ分かることなのだが、どうやらレッドは気付かなかったようだ。
じつは単純な思考回路の持ち主なのかもしれない。



「ところで、はなんで旅を?」
「私ね、自分が何者で、本当の両親が誰かを知るために旅をしているの。」
「え…。」



聞いたらまずいことだった。そう思ったレッドは急に顔を曇らせた。
だがは全然気にしていないといった感じで、ケロッとしている。



「一応育ての親はいるの。まだ私が乳飲み子だった頃、私はどうやら海を漂流してたらしくてね。
 そこを義理のお父さんが拾って、今まで育ててくれたの。
 この旅もね、別に今のお父さんに不満があって、本当の親を探しに行くんじゃ無いわ。
 お父さんには満足しているけど、やっぱり自分が何者かぐらいは知りたくて旅に出たの。」



が旅に出た一番の目的は「自分が何者であるか」を知るため。
生みの親を探すのはついでだったりする。
壮絶な幼少時代を語ったは、レッドの心配をよそに随分とサラリとしている。
はちっとも自分を不幸な人間だとは思っていなかったから、こうやってなんの悲しみもなく生い立ちを話すことが出来るのだ。



「レッドは?もしかしてバッジを集める旅をしているの?」



今度はが質問の番だ。
の問いに、レッドは大きく頷く。



「そうだよ。やっと一つ目のバッジをゲットしたところ。」



レッドはそういって、に見えるように上着の内側を広げる。
裏地には、さっきゲットしたばかりのバッジがキラキラと輝いていた。
はまじまじとソレを見つめて、カツラのことを思い出した。
カツラはの育ての親で研究者であると同時に、ジムリーダーとしての顔も持っている。
だからたまに挑戦者が彼の前に現れて対戦を挑んでいた。
いつだったか、バトルの様子を見学していたに、カツラは彼らがジムバッジを集めているのだと教えてくれた。



「バッジって何で集めるの?集めたら何かいい事が起きるの?」



カツラはバッジを集める理由までは教えてくれなかった。
テーブルに乗り出して尋ねるに気をよくして、レッドは語り始める。



「このバッジは強さの証。ポケモンマスターを目指すために必要なものなんだ。」
「ポケモンマスター?」
「ああ!敵知らずの最強トレーナーになるために、オレはこうして旅をしながらバッジを集めているんだぜ。」



はポケモンマスターという単語を初めて聞いたが、レッドの説明で大体理解できた。
つまり、彼はバトルが強いポケモントレーナーになるために修行しているのだ。
確かに先ほどの戦闘センスはなかなかのものだった。
けれど、そこまで強いというわけでもないだろう。
ジムリーダーはトレーナー達の実力に合わせて、あえて弱いポケモンで勝負をする場合がある。
カツラの話だと、ニビジムはトレーナー達が力を試すためにチャレンジする第一の関門らしい。
つまり、タケシは実のところ、新米トレーナー達のためにに手加減をしていたと考えられる。
今ここでそれを言ってしまうと、ポケモンマスターに一歩近づけた感動をかみ締めているレッドに水を差すようで悪いから、何も言わないでおくが。
二人の会話を一回中断させるように、注文した料理が運ばれてくる。
テーブルの上を埋め尽くす料理の殆どがレッドの品物だ。
気が付けば、二人は会話も忘れて食事に夢中になっていた。
なんでもこのレストランは、値段は安いにも関わらず、味は有名な料理雑誌に載るほどのものらしい。
後からはそれを知るのだが、今のはそのことを知らないまま料理の美味しさに舌鼓を打った。
レッドは注文した料理全てをぺろりと平らげ、食後のアイスにスプーンを差し込みながら思いついたように言う。




「なぁ、良かったら一緒に旅しないか?」
「え?」
「あ、いや、ほら。は自分が何者かを知るために旅をしているだろう?で、オレは各町のジムを制覇するために旅をしている。当然オレもも、全ての街を回るわけだ。だったら一緒に旅をしたほうが楽しいだろうなと思って。それに女の子の一人旅は危ないだろうし。」



レッドの提案には少し迷った。
生まれてはじめての旅だ。
確かに、仲間がいると凄く嬉しいと思う。
グレン島の中だけで育った自分は外の世界に疎いから、世間のことをよく知っている人が居てくれるとかなり助かる。
しかし、そんな思いとは裏腹に、カツラ以外の人間は怖い。
なにせろくに人と触れ合わずに生きてきたのだ。
いきなり仲間が出来ても、どうやって接すればいいかもわからない。
けれど、は思った。
もしかしたら、レッドが相手なら怖がらずに旅をしていけるかもしれない、と。



「私、全然世の中のことを知らないけれど、それでもよければよろしく。」
「もちろんだよ!!よろしくなっ!!!」



差し出された手を握ると、思った以上に温かい。
はその手から伝わる熱に、なんだか安らぎを感じていることに気が付いた。
思った以上に、レッドとは上手くやっていけそうだ。









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まともなお話。
次はレッドと旅する前にちょっと寄り道。

2007/2/18
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