探し物の物語。

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09

びっくりするほど見違えた目の前の少女は、ヒラヒラのドレスを翻して得意げに微笑んだ。
これぞまさしく



「馬にも衣装?」



馬じゃなくて馬子だよ。
のツッコミより早く、大変身をとげたカスミの鋭い言葉がピシャリとレッドをたしなめる。









探し物の物語 9話










カスミはハナダシティでも有数の資産家の娘らしい。
最初の出会いは泥まみれに汚い服といういで立ちだったから全くの庶民に見えたが、いざこうして大豪邸でドレスを着て身なりを整えたら、確かに気品溢れるお嬢様に見えないこともない。
断定じゃないのは、カスミの性格がお嬢様から掛け離れているからだ。
いくら外見をお嬢様色に染めたところで、内側から滲み出るお転婆な気質は隠しきれていない。
豪勢な食事が並ぶテーブルについた達を取り囲むように数多くの侍女が控えた中で、三人の晩餐は始まりを告げた。
会話の殆どはレッドの自慢話だ。
数々の体験を時には面白く、時には大袈裟に語る彼に、周りを取り囲む侍女達から堪えず羨望や笑い声、感嘆のため息が漏れる。
お陰でレッドは更に気をよくして鼻高々に話すものだからキリがない。
何となくはそれが面白くなくて、一足早く食堂から立ち去った。
この広い屋敷の中からあてがわれた部屋を探して見つけるのは一苦労だったが、なんとか無事にたどり着く。
部屋にはいると、何故だかどっと疲れが押し寄せて来た。
よくよく考えれば、今日は色んな事があったのだ。
ギャラドスとの戦闘(これはが戦った訳ではないが)やオツキミ山の探索。そしてロケット団との戦い。
神経が擦り減るには十分過ぎる出来事のオンパレードだ。
そういえば、ロケット団と対面したとき、イーブイはやたらと怯えていた。
あれは一体どうしてだろうか。
無駄に広い部屋に一人でいるのはなんだか落ち着かないから、それなら全員出してしまおうと三個のボールを一斉に開く。
ウインディとラプラスが現れると、一気に部屋が小さくなったように感じた。
水ポケモンをこよなく愛しているからだろう、部屋の片隅には水ポケモン用の小さいプールまで用意されていたので、ラプラスは床を這ってそこにたどり着く。
そして意気揚々と小さいプールの中で水と戯れ始めた。
ウインディはラプラスがはしゃいで立てる水しぶきが散って体が濡れないように、少し離れた位置でのんびりと伏せる。
居心地がいいため、うとうとし始めた横を、小さい体が通り過ぎた。



「クゥン…。」



小さい体を必死に足に押し付けてくるのは、オツキミ山で怯えていたイーブイだ。
そっと拾い上げて抱きかかえる。
もう震えてはいないけれど、不安なのはひしひしと伝わってきた。
アレから随分と時間が経ったはずなのに、こんなにも不安がるのは相当なトラウマになっているからだろう。



「よしよし、もう何も恐くないからね。」



柔らかい首周りの毛をそっと撫でる。
人肌に触れていると安心できたのか、気付けば小さな寝息が腕の中から聞こえていた。
起こさないように布団の上において風呂場に移動する。
個室とはいえ、さすが豪邸だけあって風呂場のスケールも侮れない。



「ラプラス、そのプールよりお風呂の水風呂のほうが広くていいかも…って…。」



戻って呼びに来てみれば、ラプラスは小さいプールに浸かって就寝モード。
ウインディも既にふかふかの絨毯に身を預けて眠っている。
結局起きているのはだけ。
今日のバトルで疲れたのは、何もだけではなかったということだ。



「皆、お疲れ様。ゆっくり眠ってね。」



幸せそうな顔をして眠る三匹に向かってにっこりと笑いかけ、一日の疲れを取るべくお風呂に戻った。
個室についているお風呂にしてはやけに広すぎるそこは、なんだかそわそわして落ち着かない。
きっとポケモンと一緒に入るために、ここまで広い作りになっているのだろう。
ポケモンが大好きな人にはたまらない設計だ。
脱衣所で服を脱ぎ、たっぷりと溜まったお湯の中にそっと足先から入っていく。
少し熱くて、けれどもその熱さが一日の汚れや疲れを落としてくれる気がして、思いっきり肩まで浸かる。



「ふぅ、気持ちいい〜。」



最初こそそわそわする広さだったが、広い浴槽を独り占めするのも案外悪くないかもしれない。
…なんて思ったそのときだった。



ーーーっ!!!!大丈夫かっ?!」
「っ!?」



バターン、と部屋のドアが開き、やけに焦ったレッドの声が聞こえてくる。
静寂を突如かき消したその声に驚き、呼ばれた張本人は驚きのあまり湯の中に頭を突っ込んだ。



っ!」



レッドは部屋のドアを突破しただけでなく、部屋の中に居ないを探してお風呂のドアまで開いた。
しかしは湯の中に頭まで浸かったままだったので、彼には見えていない。
大切な旅の仲間が消えてしまった―――!
混乱したレッドはガウンを翻してお風呂場から出て行こうと踵を返す。
けれど、彼が出て行くより先にの息は限界に達した。



「ぷはぁっ!!」



ザバァ、と湯が盛り上がり、すっかりと濡れてしまった頭が水面を突き破って現れる。
レッドは振り返った。赤い瞳に探していた人物が映り、心底安心したようにホッと息をつく。
見つけられたは、



「み、見ないでーーーっ!!!!」



手元にあった風呂桶を渾身の力で投げつけた。
厳しいカツラの元で修行していただけあって、フォームはモンスターボールを投げる時と同様、完璧だ。
弧を描いて宙を飛んだ風呂桶は、ガツンと鈍い音をたてて見事にレッドの額に命中した。
たとえ投げるときのフォームは同じでも、風呂桶はモンスターボールより大きく、重い。
それを額に食らったら、当然ボールよりも遥かに痛いわけで。



「あいてっ!」



案の定、直撃を食らった彼は悲鳴を上げて後ろにひっくり返った。
打ち所が良かったのか悪かったのか、気絶してピクリとも動かない。
さて、どうしよう。
気絶しているうちに風呂から出て、介抱したほうがいいのだろうか。
けれども、服を着る前に彼が目覚めてしまったら?
それは非常にヤバイと思った。いろんな意味で。
どうしたものかと困っていると、騒ぎに目覚めたウインディがやってきて、倒れたレッドのガウンを咥え、どこかにずるずると引きずっていく。
きっと部屋のソファに連れて行ってくれたのだろう。
体と髪を洗って素早く風呂から上がったが服を着終わった頃、まるで見計らったようにタイミングよくレッドが目覚めた。



「あいてて…んー…。」



暫く額を押さえ込んでゴロゴロしていたが、不意にパッチリと赤い目を見開き、ガバリとソファから跳ね起きる。
はレッドを上から覗き込んでいたものだから、危うく頭に顔面が直撃するところだった。
寸でのところでかわしたまでは良かったが、驚くことにレッドが



っ!!」



がばり、と抱きついてきたもんだからさぁ大変。
まさかこんな展開になるとは思っていなくて、慌てずにはいられない。



「どどど、どうしたのレッド?!なんか変よ?」
「変なものかっ!襲われなかったか!?」



今まさにあなたに襲われそうになっているのですが。
なんて言ったら、彼はどんな反応をするだろう。
気になったけど、見つめてくる赤い瞳がやけに真剣だったので止めた。



「別に、襲われて無いけど?」
「そうか、ならいいんだ。俺の所に来たから、てっきりの所にも来てるんじゃないかと思ったんだけど…。」



俺の所に来た。
つまり、レッドは何者かに襲われたということだ。
何故彼が?まさかロケット団が襲撃してきたとか?
それとも純粋にカスミの家を狙ってやってきた強盗か何かだろうか。
色々と考えてみるが、どれもしっくりこない。



「顔は見た?相手を突き止められそう?」
「いや、顔は見えなかった。突然部屋に竜巻が起こったんだ。そんなに長くはなかったんだけど部屋はもうめちゃくちゃ。」



そういえば、とレッドが一枚の透明な鱗を取り出す。
魚のものにしてはやけにでかい鱗だった。
子どもの手よりも大きい。



(あれ?これ…。)



どこかで見覚えがある。
しかもそう昔じゃない。つい最近のことだ。



(何処で見たっけ。)



思い出せ、思い出せ。
目を閉じて、記憶の奥底を探る。
つい最近見た、巨大な鱗。



(まさか―――!)



脳裏にひらめく、ある人物とポケモン。
それは意外だったけど、それ以外に考えられなくて。



「…なんで…?」



小さく呟いた疑問符は、幸いにもレッドの耳に届かなかった。
確かめなきゃいけない。
本当にあの人なのか。
思い違いならそれにこしたことはない。



「…私、カスミにこのこと知らせてくるね。」
「俺も行く!」
「もしかしたらまた犯人が戻ってくるかもしれないから、レッドは部屋で待ち伏せしてて。私は大丈夫だから!この子達がいるし。」
「わ、分かった。」



始めて見るの手持ちのウインディとラプラスに両サイドを挟まれ、レッドは少し怖気づきながら頷く。
は二匹をボールに戻すと、そっと部屋を出た。
散々騒いだにも関わらず、まだ布団の上で寝ているイーブイを起こさないつもりだったのだ。
けれども主が部屋を出た途端、イーブイはハッと目覚めて主の姿を探す。



なら出て行ったよ。」



レッドに言われ、イーブイは素早く布団の上から飛び降り、の匂いを辿って走った。
その足音が聞こえなくなった頃―――



「戻るか…。」



に言われたとおり、レッドは自室に戻ることにする。
けれども、浴室で見たの姿を不意に思い出して、



「っ、オレ、とんでもないことしたっ!!」



実際には湯煙で殆ど見えなかった。
それに、の体は殆どが湯の中に浸かっていたはずだ。
だから余計に見えなかった。
けれども常識的に考えて、男の子が家族じゃない女の子の風呂場に押し入るのは当然いけないわけで。



「オレ、もうと顔合わせられないかも…。」



ワーッとなって、頭を抱えながらしゃがみこんだレッドは、その名の通り顔を真っ赤に染めてひたすら悩む。
まだ幼い少年が羞恥と葛藤している裏舞台では、今まさにが心当たりの人物と対面しようとしているところだった。








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カスミ宅編スタートです。でもすぐ終る予定です。
三ヶ月も放置して本当にすみません_○/|_ 土下座

2007/7/2
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